日常に何か足りなくて、何も達成感が得られないときほど異性を求める。そして、あの人のことを思い出す。忘れるって決めたじゃないか。
そして、ギターを弾いているあの人の動画を眺める。確かに私はあのとき、この目で彼を見ていた。あの居心地の悪いライブハウスで。彼はものすごく小さくて細い女の子とずっと親密そうに話していて、私は話しかけることが出来なかった。
見ただけで殴られたような衝撃が走る男に初めて会った。写真より100倍タイプだった。占星術で言うなら、彼は火星そのものであった(ちなみに彼と私の火星はインコンジャクションである)
どうしようもなく危険で、欲情が止まらない。

その数日後に実際に話した彼は、人当たりの良い人だった(と言っても彼は酔っていた)。今度のライブハウスは自分の好きな場所だった。私はそこへ行くのが3回目くらいだったのだけれど、彼は私のことを初めてライブハウスに来た人として扱った。面倒なので訂正をしなかった。
私は彼を思って何度も自らを悦びに導いた。そうやって年が明けてしまった。
バンドマンは簡単に女を食うというが、彼はプロてではないし、中途半端な知り合いの知り合いだし、そんなに女に飢えているようには見えなかった(付き合う前にバンドマンと寝たことないけど、もっと下心丸出しっぽい人には会ったことがある)
あれから約2年が経ち、きっと彼は私のことを覚えていないだろうし、連絡を取る手段もないし、もうギターは弾かないらしいのに、ずっと引きずっている。

完璧に好みの骨格の男がギターを弾いている。心の底から触れたかった。全部を失っていいから、地獄に落ちてもいいから寝てみたかった。
SNSは見ることは出来るから、いっそ誰かと結婚して、それをSNSに書いてくれないかな。そうしたら諦められる。
2019年1月、あなたのことだけを思い出にして、この世とさよならしたかった。
あの安心感と浮遊感と官能を忘れない限り、私は現実的な生活を共に歩む人を見つけることが出来ない。